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Kissing

Face02 『Kissing』

24×20"(inches) 1983年制作

Color Etching

息子、13歳。中学一年生。

さて、いよいよ『難しいお年頃』に突入である。

台所でネギをトントン、小鍋をグツグツさせていたら、息子がにゅっと背後に現れた。

手には一枚のプリントを持っている。そのプリントを私に手渡し、まるで夕飯のメニューを尋ねるかのように、サラリと言った。

「ねえ、ママは40年近く生きてきて、この問題が生活の中で必要なことが一度でもいいからあった?」

プリントは数学の問題集の一枚であった。

『次の式の値を求めよ。(1)log26+log212-2log23』 と、チンプンカンプンな設問が書いてある。

「…ううん、一度も」 と答えながら、ログってなんだったけかな?対数か?などと、心の中で冷や汗を流す。

「やっぱりねー」 息子はそれだけ言うと、スーッといなくなってしまった。

え!?それで終わりなの?

「こんなもの勉強しても人生の役に立たないじゃないか!」とか、

「何故こんな必要のない面倒くさいものを勉強しなくちゃならないんだ!」とか、

「今の僕にはもっと必要なものがあるに違いない!」とか…

人生の壮大な哲学の小路の入り口で、地団太踏んだりしなくていいの?

13歳の迷路に入り込んだら 「さあ、母の腕の見せどころよ!」とばかりに張り切っていたので、何だか拍子抜けをしてしまった。

『母の見せ場』を奪われて、大変つまらなかったので、自分から息子に擦り寄っていくことにした。

「数学って、大変だと思うけどさぁ…云々」 と言いかけると、

息子は顔も上げずに問題を解きながら 「数学は楽しいから、別に大変じゃないよ」と一言。

ちぇっ、つまんないでやんの…と思いながら台所に引き返していると、背後から満面に笑みを浮かべながら、息子が話しかけてきた。

「ママは対数の計算が要らない世界で暮らしてきたんやねー。僕は、まだ何になるか決めてないから、一応なんでもやっとくつもり。だって、まだこれから色んな道が選べるもんねー

…という訳で、子供に止めを刺されて、人生について思い悩むのは母の方になってしまった。

過ぎ去った40年近くの人生で、沢山の分かれ道に出会ってきた。その都度、選択をして前進してきた(ときには後退もしてきたけれど…)。その別れ道のどれかに『対数の計算が必要な世界』ってのも、あったのかな…。

若いって、いいな。

息子は、まだまだ『名無し』だ。彼は人生の分岐点で、自分にどんな名前を付けていくのだろう。

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