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2009年2月

The Tree-木霊

Tree13 The Tree-木霊」

個人蔵 F6号 2004年制作

「木に入り込みすぎたら(感情移入しすぎたら)こんなになっちゃったよー」

と、今泉が匙を投げた木の絵シリーズの作品『木霊(こだま)』

わたしの一番のお気に入りで、名付け親を任され「わーい、わーい」と大喜び。

イタリア旅行の時に出会った、晩年のミケランジェロの未完の彫刻の前で、心が吸い取られていくような、それでいて、無二の愛について諭されるような、そんな気持ちになったときとのことを思い出し『木霊』と命名。

今泉の好きだったミケランジェロ。

ミケランジェロは生涯で4つの『ピエタ』を制作している(うち3つは未完のままです)

イタリアで最初に出会ったのは、若き日のミケランジェロが完成させた『サン・ピエトロのピエタ』

ピンと張りつめた空気の中のピエタは、その繊細さゆえに人を傷つけてしまうこともある、硝子のようなもろさと美しさが同居していて、神が舞い降りたかと思わせるような完成度の高さで、それを目にした人々の心を虜にしていた。(心を持たないものを、ただ鑑賞しただけで涙が出るという経験をしたのは、これが初めてでした)

次に出会ったのは、晩年、視力をほとんど失っていたとわれるミケランジェロの遺作ともなった、未完の『ロンダニーニのピエタ』

行く人の足を止めずにはいられない張りつめた空気を感じさせる美しさはなく、ただそこには、重く悲哀を含んだミケランジェロの影が見えるような気がしただけだった。

けれどそこには、心が吸い取られていくような、それでいて、無二の愛について諭されるような何かがあると感じたのを今でも鮮明に覚えている。

そして、この『ロンダニーニのピエタ』への回想から、作品タイトルを『木霊』としたのだった。

『木霊』はすぐに、あるご夫妻の目に止まり、完成してから数ヶ月のうちに我が家のアトリエを出て行ってしまった。

ずいぶん昔に、大切な息子さんを亡くされた経験をお持ちのご夫妻だと、今泉が静かに言っていたのを思い出す。

いつかは消えてしまう人間の、本当の幸せって、何なのだろうな…

聖母像の到来

著者:若桑 みどり

聖母像の到来

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The Tree-想い

Tree11 The Tree-想い」

F6号 2004年制作

パンドラの箱。

開けてはいけない物を、ついうっかり開けてしまいました。

沢山の過去に蓋をして、もう二度とは開けまいと、ずっとそうして頑張ってきたのに。

仕事でレコーダーが必要になるかもしれないと思い、ずいぶん長いこと使っていなかったMD(Mini Disk)を整理していたら、タイトルの記していないMDが、箪笥の引き出しから1枚だけ出てきました。

はて、これはなんだったっけ?

さっそくプレーヤーに挿入して再生ボタンを押すと、幼子のたどたどしい発音のメッセージが流れてきました。

「パパ、今日、赤いランドセルを買ったよ。幼稚園のお別れ会で世界の国の踊りを踊ったよ。上手に踊れたよ。パパ、早く元気になって、入学式には絶対来てね」

「パパ。僕はお勉強も一杯して、ママの言うことも聞いて、妹とちゃんとお留守番もしているよ。早く病気を治して帰ってきてね。パパがいないと寂しいよ」

おもわず電源を切りました。

『パパへのメッセージ~子供たち』と、すぐにタイトルを書いて、元あった場所よりも、うんと奥のそのまた奥へとMDを仕舞いました。

今泉が倒れ意識が戻らぬまま逝ってしまうまでの四十日近く、子どもらのメッセージを録音して、廃人のようになってしまった彼の耳元で流し続けたMDでした。

結局、意識は戻らぬままで「さよなら」も言えないままに、永遠の別れとなってしまいました。

「こういうものに蓋をしてはいけません」と、かかりつけの医者は言いました。

「泣くべき時に泣けない人は、あとからその何倍もの精神的な苦痛に見舞われますから」と。

そうして、一周忌が過ぎた頃、突然、手足がいうことをきかなくなりました。

他人と上手く話せなくなりました。身体中が痛んで、夜、全く眠れなくなりました。

いま子どもらを残して死ぬわけにはいかないと、身体のどこかにある病巣を早く探し当てなければと、慌てて総合病院であらゆる検査を受けました。

結局、病巣は『心の中』に巣食っていたのでした。

「こういうものに蓋をしてはいけません」

医者の言うことは、正しかったと思います。けれど、今でも蓋をあけることはできません。

このまま、肉体という器がなくなる日まで蓋をして、その日がきたら、全部一緒に今泉のところまで持っていこうかと思っています。

わたしは、静かに平穏に暮らして生きたいと、ただそれだけが願いです。

『The Tree-想い』の木は、娘の誕生にあわせて、今泉が「想い」を込めて玄関脇に植えました。

この絵にも蓋をして、ほとんど見ずにきましたが、モデルの木も、今はずいぶん大きくなっていることでしょう。

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド

著者:村上 春樹

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド

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The Tree-庭の木

Tree02 The Tree-庭の木」

F6号 2004年制作

春信。

『ふと窓の外に目をやると、節分の日の豆打ちの残りを、雀がベランダで啄ばんでいるのが見えた。嬉しくなって窓を開けると、心なしか空気がやわらかい』…そう書いたのは一年前。

時間の流れのなんと早いことだろうか。

そして…。

今年もまた、我が家に春の訪れを告げる、一枚の葉書がやってきた。差出人はもちろん野見山暁治先生だ。

寒中お見舞

さき行き おぼろげな世相です

ともかくも 歯を食いしばって 暮らしましょう

大丈夫かな ぼく 入歯だけど

2009年 冬

みなさん 元気だろうかと 心配です。 なんか 励ましてやりたい。

    野見山 暁治

先生、また春がやってきますね。

こちらはみな、大変元気です。

失ったモノは、もう二度と戻らないということを、ようやく理解できるようになりつつあります。

…ということで、平凡な我が家の毎日にも、少しは進展がみられるようです。

ベランダの打ち豆の残りを、チュンチュンと嬉しそうに啄ばんでいる雀を見ながら、今年は野見山先生のように『つよいひと』になって、これからやってくる新しい季節を見送りたいと、そんなことを思ったりする暖かな午後であります。

(異境で癌に冒され、死の床についた妻。異文化との摩擦に苦しみながら懸命に孤独な看病を続ける画学生の夫(野見山暁治)。その壮絶な日々を日録をもとに克明に再現した、小説を超えたレシ(実録))

パリ・キュリイ病院  

著者:野見山 暁治

パリ・キュリイ病院

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