カテゴリー「Face」の3件の投稿

Mother and Child

Etching01 『Mother and Child』

Color Etching 1983年制作

「初めは一匹のつもりやったんだぞ」

と、父が言った。

ある日、実家へ帰省すると、小さな仔猫が一匹、父の寝室に住み着いていた。

あれから数年。猫は毎年増えていき、現在では、世間で言うところの『猫屋敷』へと変わりつつある、片田舎の実家である。

職場の駐車場で、職員の昼食の残飯を何度か与えているうちに、父の姿を駐車場付近で見つけては、「にゃぁーん」と擦り寄ってくるようになった仔猫。

まだ暖かいうちは何も感じなかったが、段々と冬が近付き気温が下がってくると、父は仔猫のねぐらの心配をするようになってきた。

そこで、不安を抱えて仔猫を想うより、自宅に連れ帰ったほうが、自分自身の精神的な負担が少ないと、父は判断したようだ。

動物病院で処置を受け、人間の住処へ連れて行かれた仔猫は、やはり野良猫。なかなか人には懐かず、現在も父以外の人間には心を許してはいない。

これも父性愛というのだろうか。

猫にとって、これは幸なのか不幸なのか…。

少女時代に、一人芝居ができるほどに読み込んだ、大島弓子著の『綿の国星』の擬人化された猫たちの世界は、心を暖かい毛布で包んでくれた。

その大島弓子さんも、随分と色んな経験をされ、今ではりっぱな『猫屋敷』の主となっていらっしゃるようだ。

大島弓子さんの猫たちとの暮らしを描いたエッセイ漫画が『手塚治虫文化賞短編賞』を受賞し、映画化されて今秋全国一斉公開とのことである。

母性愛。父性愛。人間のエゴイズム。猫のあるべき姿。野良猫と家猫…

今秋は、色々と考え事がつきずに過ごせそうかな。

グーグーだって猫である

著者:大島 弓子

グーグーだって猫である

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Kissing

Face02 『Kissing』

24×20"(inches) 1983年制作

Color Etching

息子、13歳。中学一年生。

さて、いよいよ『難しいお年頃』に突入である。

台所でネギをトントン、小鍋をグツグツさせていたら、息子がにゅっと背後に現れた。

手には一枚のプリントを持っている。そのプリントを私に手渡し、まるで夕飯のメニューを尋ねるかのように、サラリと言った。

「ねえ、ママは40年近く生きてきて、この問題が生活の中で必要なことが一度でもいいからあった?」

プリントは数学の問題集の一枚であった。

『次の式の値を求めよ。(1)log26+log212-2log23』 と、チンプンカンプンな設問が書いてある。

「…ううん、一度も」 と答えながら、ログってなんだったけかな?対数か?などと、心の中で冷や汗を流す。

「やっぱりねー」 息子はそれだけ言うと、スーッといなくなってしまった。

え!?それで終わりなの?

「こんなもの勉強しても人生の役に立たないじゃないか!」とか、

「何故こんな必要のない面倒くさいものを勉強しなくちゃならないんだ!」とか、

「今の僕にはもっと必要なものがあるに違いない!」とか…

人生の壮大な哲学の小路の入り口で、地団太踏んだりしなくていいの?

13歳の迷路に入り込んだら 「さあ、母の腕の見せどころよ!」とばかりに張り切っていたので、何だか拍子抜けをしてしまった。

『母の見せ場』を奪われて、大変つまらなかったので、自分から息子に擦り寄っていくことにした。

「数学って、大変だと思うけどさぁ…云々」 と言いかけると、

息子は顔も上げずに問題を解きながら 「数学は楽しいから、別に大変じゃないよ」と一言。

ちぇっ、つまんないでやんの…と思いながら台所に引き返していると、背後から満面に笑みを浮かべながら、息子が話しかけてきた。

「ママは対数の計算が要らない世界で暮らしてきたんやねー。僕は、まだ何になるか決めてないから、一応なんでもやっとくつもり。だって、まだこれから色んな道が選べるもんねー

…という訳で、子供に止めを刺されて、人生について思い悩むのは母の方になってしまった。

過ぎ去った40年近くの人生で、沢山の分かれ道に出会ってきた。その都度、選択をして前進してきた(ときには後退もしてきたけれど…)。その別れ道のどれかに『対数の計算が必要な世界』ってのも、あったのかな…。

若いって、いいな。

息子は、まだまだ『名無し』だ。彼は人生の分岐点で、自分にどんな名前を付けていくのだろう。

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Kissing among Faces

Face01 『Kissing among Faces』

90.9×65.1cm 1982

Egg Tempera,Acrylic on Canvas

時々、近隣の中学校の『裏サイト』へ遊びに出かける。

無数の『名無し』が、ウヨウヨいて、実体のわからないそれらが、奇妙なやり取りを続けている、何とも不思議なところだ。

『名無し』たちは『単語』で会話する、非常に変わった生き物だ。

名無し:まじ?

名無し:ん

名無し:きも~

名無し:テスト、いらね

名無し:サイテー

ちっとも面白くないので、もちっと語彙を増やせよ『名無し』!…などと思いつつ、今泉の初期の遺作が頭にポヨヨンと浮かんできたので、古い資料の埃を叩きながら、暗闇を彷徨う無数の顔の作品『Kissing among Faces』を探し出した。

そこに確かにいるのに、実体がわからない無数の『名無し』たち。

あまりの不気味さに、途中で投げ出したきりの夢野久作の『猟奇歌』と、実体のない『名無し』たちと、ホントはどちらが怖いのだろう…

「ある名をば ていねいに書き 抹殺をして 焼きすてる心」

「頭の中で ピチンと何か割れた音 イヒ・・・・・・・と・・・・俺が笑ふ声」

「号外の真犯人は俺だぞ・・・・・・と 人ごみの中で 怒鳴ってみたい」

「誰か一人殺してみたいと思ふ時 君ひとりかい・・・・・・と友達がくる」

「自殺しようか どうしようかと思いつつ タッタ一人で玉を撞いてゐる」

「毎日毎日 向家の屋根のペンペン草を 見ていた男が狂人だった」

(『猟奇歌』は全集の<3>に収録されている。読んで気持ちの良いものではないので、おススメは<4>)

夢野久作全集〈4〉 (ちくま文庫)

著者:夢野 久作

夢野久作全集〈4〉 (ちくま文庫)

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